TA心理学とは?

私はこれまで、TA心理学を用いて、いろいろな事象を考えてきました。
ではTA心理学とはどのような心理学なのか、改めて説明したいと思います。

TA心理学(Transactional Analysis)とは?

TAとは Transactional Analysis の略です。

Wikipediaでは次のように説明されています。(筆者訳)

Transactional Analysis(TA)は社会的やりとりを分析して、行動を理解するための基礎として、コミュニケーションしている人の自我状態(親のような、子どものような、または成人のような)を見極める精神分析理論および治療法である。TAでは、感情的な問題を解決する方法として、コミュニケーションする人の自我状態を変えるように指導する。この方法は、無意識のうちに保持されているアイデアの内容に対する意識を高めることに焦点を当てたフロイトの精神分析から逸脱している。エリック・バーンが1950年代後半にTAの概念とパラダイムを開発した。

日本TA協会では、TAを次のように説明しています。

Transactional Analysisを略してTAと言う。TAとは,精神科医エリック・バーン(Eric Berne,1910-1970)が創始した一つのパーソナリティ理論であり,個人が成長し変化するためのシステマティックな心理療法の一つである。日本では,「交流分析」という名で呼ばれることもある。

また、TA教育研究所のホームページでは、次のように説明しています。

1950年代後半に、エリック・バーン博士(Eric Berne, MD)が開発した人の思考、感情、行動について、日常の平易なことばと図式(ダイヤグラム)を使って説明する心理学です。
自分自身や、他者、そして組織を理解し、それぞれの成長・変化、また問題解決に役立ちます。サイコセラピー(心理療法)、教育、組織やカウンセリングの場で現在のニーズに合う効果的なシステムの一つです。

これらをまとめて要約すると、

・TA心理学は人の思考、感情、行動に注目し、心と行動を快適にする心理学
・特徴的なのは、日常の平易なことばと図式を使って説明している
・個人や組織が成長し変化するためのシステマティックな心理療法

という感じになります。

TAは私にとって、ほかの心理学よりもとっつきやすい、理解しやすいものであり、普段の生活に役立つものが多くあります。
TAの哲学や主な考え方を見ていきましょう。



TA心理学と交流分析は違うもの?

TA(Transactional Analysis)心理学を、日本語では「交流分析」と訳されています。

しかし、厳密には、全く同じものではありません。

国際TA協会(ITAA)教育分野教授でTA教育研究所所長の安部朋子氏はその著書で次のように解説しています。

日本に1970年代初め、当時九州大学心療内科におられた池見酉次郎先生により導入されました。彼はTAについて次のように定義しています。「TAに東洋的哲理を加味し米国式の『TA』から換骨奪胎(筆者注:カンコツダッタイ、と読みます)(古人の作品の趣意は変えず語句だけを換えるあるいは、古人の作品の趣意は変えず語句だけを換えること、あるいは古人の作品の趣意に沿いながら新しいものを加えて表現すること)したものとして『交流分析』なる表現を提唱、米国式の『TA』と『交流分析』とは,一応区別して考えるもの」

(参考:『ギスギスした人間関係をまーるくする心理学 エリック・バーンのTA』より)

臨床心理学者で日本に交流分析を取り入れたおひとりで、日本交流分析学会理事長を務めている杉田峰康さんは著書の中で次のように説明されています。

東洋思想を加味して米国式のTAの理論や技法の再編成をし、まとめたものを「交流分析」と名付けました。これは、自己分析を通して、人間関係の分析(人間的な交流のあり方の分析)をはかるものです。米国式のTAと私どもの提唱する交流分析は、表現の違いだけでなく、内容的にも本質的な点で理論が異なるので、区別して考えてください。

(参考:『3つの自分で人づきあいがラクになる エゴグラムで見える本当の私』より)

私は、国際TA協会(ITAA)会員でもあり「TA」を学んでいますので、考え方、表現はTAをベースにしています。

TA心理学の哲学

TAの基本的な考え(TAの哲学)には、次の3点があります。

①人は誰でもOKである。
②誰もが考える能力を持つ。
③自分が自分の運命を決め、その決定を変更することができる。

① People are OK,
② Everyone has the capacity to think.
③ People decide their own destiny, and these decisions van be changed.

このTAの哲学は、人生に対する考え方、生きる軸について光を与えてくれます。

TAの哲学①:人は誰でもOKである

人は誰でも存在する権利、幸せになる権利を平等に持っています。
人の存在に優劣はなく、みんな一緒に幸せになりましょう、ということですね。

「人は誰でもOKである」

これを言葉にして言ってみると、気持ちが落ち着き、心が穏やかになります。
不思議な力を持った、魔法のフレーズです。
このワンフレーズだけでも、ぜひ覚えてください。

TAの哲学➁:誰もが考える能力を持つ

人は誰でも考える能力を持っています。したがって自分の人生に何を望んで、何を求めるかを決める責任は自分自身あります。自分の想いを伝えるために、だれでも考える能力を持っています。
考える能力をフルに使ってコミュニケーションをとるのが、TA的な、より良く生きるための方法となります。

TAの哲学③:自分が自分の運命を決め、その決定を変更することができる

自分のこれまでの人生は、自分で選択してきた結果です。誰かに言われて行ったとしても、最終的に決断をしたのは自分なのです。

一度決めた決断も、後で変更することができます。決めたことに固執しすぎることはありません。人は変わることができるのです。
生きていくうちに、いろいろなことを学んだり、社会経験を積んだりして生きていくための知識も増えていきます。それまでの自分で決めた人生とは違うゴールが見つかるかもしれません。自分の人生は自分で判断・決断し、自分で選択しましょう。



TA心理学の目的(ゴール)

TAの目的(ゴール)は「自律性を高め自分らしく生きること」と言われています。
自律性とは「何をやってもうまくいかない。何とかしたい」「人間関係を改善したい」「もっと元気になりたい」「もっと幸せになりたい」など、今の状況を改善し、自分らしく生きることです。
TAでは、人はゴールに向かって自分をコントロールしていると、考えています。
ゴールは人の幸せであったり夢であるともいえます。
幸せや夢をつかむために、自分らしく生きること、自分をコントロールすることがTAの目的なのです。



TA心理学の中心となる概念

TA心理学の理論は、3つの柱に分けられています。

TA主要概念①:パーソナリティー理論

私たちどのような構造(仕組み)なのか。
主な理論:自我状態モデル(PACモデル)など

TA主要概念➁:コミュニケーション理論

私たちはどのように他者とコミュニケーションをとっているのか。
主な理論:やりとり、ストローク、時間の構造化、ゲーム、脚本など

TA主要概念③:児童の発達理論

私たちの今の生活パターンは、幼い頃に根差していて、成長した今もそれに影響されている。
主な理論:脚本、ドライバー、ラケット、ライフポジションなど

この3つの概念が、それぞれいろいろな理論で構成されています。



TA心理学の主な理論

TA理論①:自我状態モデル

自我状態モデルには、その構造を示す「自我状態構造モデル」と、私たちがどう機能しているのか、または周りからどのように見えているのか表すのに使う「自我状態機能モデル」があります。

自我状態構造モデル

TAの基礎となる理論で、人間のパーソナリティを3つのパートで表現しています。

(P):親(Parent)・・・親や親的役割の人をコピーした、親のように振る舞う思考・感情・行動
(A):成人(Adult)・・・今、ここでの直接の反応として、成人のように振る舞う思考・感情・行動
(C):子ども(Child)・・・子ども時代の記憶の反復として、子どものように振る舞う思考・感情・行動

自我状態機能モデル

私たちがどう機能しているのか、または周りからどのように見えているのかを表します。
自我状態機能モデルにはいくつかの分類方法がありますが、ここでは代表的な6つの分類方法を紹介します。

(NP) :養育的親(Nurturing Parent)・・・お世話、面倒見る、思いやり、優しさ、見守り、いたわり、過保護、過干渉
(CP) :批判的親(Critical Parent)・・・指示、命令、批判、評価、リーダーシップを発揮するとき、頑固、執拗、偏見
(A) :成人(Adult)・・・状況把握、冷静な判断
(NC) :自然な子ども(Nature Child)・・・夢中になる、楽しくなる、感情表現、想像力
(AC) :従順な子ども(AC:Adapted Child)・・・従順、順応、協調、謝罪、社会適応、言われるがまま、主体性がない
(RAC):反抗する子ども(Rebellious Adapted Child)・・・反抗、反発、復讐、見返してやる

※(AC)、(RAC)を、人目を気にする、という点でまとめて(AC)と表現することもあります。

エゴグラム

5つの自我状態(NP,CP,A,AC,NC)が放出する心理的エネルギーの量を棒グラフで表したものです。

例)


■ ■
■ ■ ■
■ ■ ■ ■ ■
——————
CP NP A  FC AC



TA理論➁:やりとり分析

人が会話をしているときに、自我状態がどのように機能しているのかを見ていく方法がやりとり分析になります。

私から相手に発信されたものを「刺激:Stimulus(s)」と呼び、その刺激に対する応答を「反応:Response(R)」と呼びます。
この刺激と反応の1セットがやりとりの一単位となります。

私 →刺激(S)→ 相手
私 ←反応(R)← 相手

やりとりの主なものは大きく3つあります。

相補交流(並行交流)

相補交流は最もシンプルなやりとりになります。
ふたりの自我状態のやりとりが並行となるものです。

交差交流

ふたりの自我状態のやりとりが交差するものです。

裏面交流

このやりとりは、会話の言語(社交レベル)のやりとりのほかに非言語(心理レベル)のやりとりが存在し、同時に発せられます。

例)会社にて
社員A:もうこんな時間。仕事疲れたなぁ。(社交レベル)
:もう今日は仕事はやめよう(心理レベル)
↓↑
社員B:ほんと。今日は疲れた!(社交レベル)
:仕事はも終わり。やめた!(心理レベル)



TA理論③:ストローク

個人の精神衛生を維持するためには、絶え間ない感覚刺激が必要で、その刺激のことをストロークを言います。
ストロークには「言語」「非言語」「肯定的」「否定的」「条件付き」「無条件」があり、ストロークを受けるとモチベーションがアップしたり元気が出たりします。ストロークは「こころの栄養」とも呼ばれます。
無条件な肯定的ストロークは、相手の存在を認めるもので相手を元気づける最も効果的なストロークになります。

例)
(ほほ笑んで)おはよう。うなずきながら聞く。目線を合わせる。背中をさする。見守る…

TA理論④:時間の構造化

人と一緒に過ごすときに、6つの異なる時間のすごし方があるとする考えかたです。

◆引きこもり・・・物理的、身体的には一緒にいても、心理的には周囲との関係を断っている状態
◆儀式・・・予測可能なおきまりの社交的にやりとり。(あいさつなど)
◆気晴らし・・・これまでのことについての情報交換している状態
◆活動・・・仕事、勉強、研究など目標達成のために活動している状態
◆ゲーム・・・いつの間にか、うまくいかない、いやな気持ちになってしまうやりとりを繰り返す状態
◆親密さ・・・表裏なく、良いことも悪いことでも何でもお互いに真の気持ちを表現しあえる状態。



TA理論⑤:人生脚本(脚本、ライフ・スクリプト)

人が生まれてから死ぬまでの人生をドラマとして捉え、そのドラマには脚本が存在していると考え方が人生脚本(ライフ・スクリプト)になります。人生脚本は、自分で描いた人生のシナリオ、無意識の人生計画である、と言われています。

TA理論⑥:ラケット感情

私たちが普段表している感情表現で、ストレスがあった時に本来感じている感情とは別の感情を表していることを言います。

例)
子どもが走って転んだ時に「あ、大丈夫」と思いながら「何やっているの!急いで走るから転ぶのよ!」と怒る。
間違いを指摘された時に「あ、やっちゃった。恥ずかしい!」と感じながら「チッ」と舌打ちする。

このように表された感情は、私たちが幼児期から小学校入学前くらいまでに学んできた「お気に入りの感情」で、その感情を表すことで気持ちは安定します。ただこのお気に入りの感情は、いやな気持ちになる感情なので、何か問題があっても解決するものにはなりえません。


TA理論⑦:ゲーム

日常生活の中では、いつの間にか繰り返しているうまくいかないやりとりがあり、決まっていやな気持ちになってしまいます。

例)
晩ごはん何にすると聞いたら「何でもいい」と言ったにもかかわらず、カレーを作ると「またカレーか」と舌打ちをされ、ケンカが始まる。
「勉強終わったの」「今やるところ」「いつやるの!」「うるさいなぁ。やればいいんでしょう!」

このように、いやな気持ちになるにもかかわらず、何度でも繰り返してしまうやりとりを「ゲーム」もしくは「心理ゲーム」と言います。

TA理論⑧:ライフ・ポジション(人生の立場)

人は3歳~7歳くらいまでに、その後の人生を過ごしていくうえで、自分と相手(周りの人)との関係について、お互いの感情のポジションを決めていくと言われています。その感情のポジションを「ライフ・ポジション」と言い、人生の基本的立場や人生態度を決めています。

ライフ・ポジションは4つあります。

◆私はOKである。あなたはOKである。・・・i’m OK.You’re OK (I+Y+)
◆私はOKでない。あなたはOKである。・・・i’m Not OK.You’re OK.(I-Y+)
◆私はOKである。あなたはOKでない。・・・i’m OK.You’re Not OK.(I+Y-)
◆私はOKでない。あなたはOKでない。・・・i’m Not OK.You’reNot OK.(I-Y-)

例)
・この問題はみんなでやればきっと解決できる。大丈夫!(I+Y+)
・この問題は私にはできない。きっとあれかが解決してくる。(I-Y+)
・この問題はあいつのせいだ。あいつに解決させよう!(I+Y-)
・この問題はどうしようもない。だけも解決できっこない。(I-Y-)

このような反応は、その人が日常取っている態度の傾向を示しています。
この態度の違いによって、コミュニケーションがうまく取れないことが起こります。



TA心理学の扱っている分野、領域

TAは精神科分析医の臨床の場から発展してきていますが、その理論は多くの人に受け継がれ、4つの分野「臨床」「カウンセリング」「教育」「組織」で実践と創造的発展をしています。

TA心理学の大枠を説明しました。
これからは、個別の理論についても説明していきたいと思います。

【参考文献】

『ギスギスした人間関係をまーるくする心理学 エリック・バーンのTA』
安部朋子 著
西日本出版

『TA TODAY 最新・交流分析入門』
イアン・スチュアート/ヴァン・ジョインズ 著
深沢道子 監訳
実務教育出版

『3つの自分で人づきあいがラクになる エゴグラムで見える本当の私』
杉田峰康 著
創元社



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